VI法によるリアクトルのインダクタンス(以降L値と記す)の測定方法を紹介します。
あわせて、他の測定方法での計測結果と比較し考察を行いました。

1.リアクトルのL値を求めるための算出式
  リアクトルは抵抗分とリアクトル分を持っているので、これをRL直列回路(図1)として考える。
  この回路に正弦波交流電圧を印加した場合の電流を i=Isin(ωt)とすると、

vi_fig1

  (1)抵抗Rの両端電圧:VR = RIsin(ωt)
  (2)リアクトルLの両端電圧:VL = ωLIsin(ωt+90°)
  (3)合成電圧vは、
    ・電流に比べてφ=tan-1(ωL/R)だけ位相が進む形となり
    ・RとLの合成インピーダンスZは、
       \displaystyle Z = \sqrt{R^{2}+(\omega L)^{2}} から、
       v = Vsin(ωt+φ)となる。(ここで、V=ZI)
                                                         図.1

     合成電圧と電流の波形を図2に、ベクトル図を図3に示す。
vi_fig2
                  図.2                                図.3

  (4)ベクトル図より三角形のピタゴラスの定理を用いLの算出式が導かれる。
      V2 = V2 + V2 
      V2 = (RI)2 + (ωLI)2 (ここでω= 2πf) よりL値は、
       \displaystyle L = \frac{\sqrt{V^{2}-(RI)^{2}}}{\omega I}  ・・・・【式1】

2.VI法によるL値の測定
<測定方法>
  (1)リアクトルの直流抵抗Rを事前に測定する。
  (2)既知の周波数f,正弦波電圧V,その時の電流I(但し歪なきこと)を測定する。
  (3)【式1】によりL値を算出する。

<測定結果>
  試験リアクトル:TR-AF0366(0.2mH-40A)
  周波数:60Hz

項目 記号 計測値 計測器
直流抵抗 R 8.975mΩ ミリオームテスター
電圧 V 4.205V DMM
電流 I 40.3A クランプメータ
  L値は、【式1】より

    \displaystyle L = \frac{\sqrt{V^{2}-(RI)^{2}}}{\omega I} = \frac{\sqrt{(4.205V)^{2}-(8.975m\Omega \times 40.3A)^{2}}}{2 \times \pi \times 60Hz \times 40.3A} = 0.2757mH

3.電力計によるL値算出
<測定方法>
  電力計では、皮相電力、有効電力、無効電力などをそれぞれ計測することができる。
  ここで、有効電力からRを、無効電力からLを求めることができる。
  (1)皮相電力:S=V×I[VA]
  (2)有効電力:P=V×I×cosφ[W] = R×I2  より抵抗分は、
     \displaystyle R = \frac{P}{I^{2}}  ・・・・【式2】

  (3)無効電力:Q=V×I×sinφ[Var] = ωL×I2 よりL分は、
     \displaystyle L = \frac{Q}{\omega I^{2}}  ・・・・【式3】

<測定結果>
  試験リアクトル:TR-AF0366(0.2mH-40A)
  周波数:60Hz
  計測器:デジタルパワーメータ

項目 記号 計測値
電圧 V 4.31V
電流 I 40.48A
皮相電力 S 174.4VA
有効電力 P 24.6W
無効電力 Q 172.7Var

  リアクトルの直流抵抗分は、【式2】より
    \displaystyle R = \frac{P}{I^{2}} = \frac{24.6W}{(40.48A)^{2}} = 15.01m\Omega

  L値は、【式3】より
    \displaystyle L = \frac{Q}{\omega I^{2}} = \frac{172.7Var}{2 \times \pi \times 60Hz \times (40.48A)^{2}} = 0.2796mH

4.インピーダンス・アナライザによる測定
  計測器:LFインピーダンス・アナライザ 4192A(HP)
  試験リアクトル: TR-AF0366(0.2mH -40A)
           TSL2-70A-0.7mH(直列配線) ・・・参考データ
           TR-AG0232(0.32mH-20A)  ・・・参考データ
<測定結果>

vi_fig3

5.結論
  VI法による測定結果、および他の方法での測定結果をまとめると、

測定方法 インダクタンス値(mH) 直流抵抗値(mΩ)
 VI法 0.2757 8.98
 電力計法 0.2796 15.01
 インピーダンス・アナライザ 0.25

  VI法によりL値を計測できることがわかる。
   ただし、鉄損が大きい場合は、値がずれるので注意が必要である。

6.考察
  ①インピーダンス・アナライザによる測定結果とVI法や電力計との差が大きい。
   これは、インピーダンス・アナライザは実際に定格電流を流さずに測定しているため、
   鉄心の特性などが実動作時と異なる為である。L値を測る場合は、実動作に近い状態で測る必要がある。
  ②周波数によりL値が変わるのは、容量成分など他のインピーダンスの影響によるものと考える。
   特に高い周波数で、見かけ上L値が上昇するのは、容量成分とLによる共振のためである。